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第八回 きものの世界っておもしろい

有限会社足立和裁研究所4代目 足立 善紀氏

京都市西京区桂乾町33-7(本部)、向日市寺田町東野辺58-3(東向日教室)
有限会社足立和裁研究所4代目。
32歳、明治時代に祖母の姉が創業して以来、引き継がれてきた和裁研究所の跡継ぎとして現在に至る。18歳から6年間、愛知県の和裁訓練校で修行を積みプロとしての土台を築いたという努力家。研究所代表取締役である母(足立ヨシ子氏)の頼もしい片腕として17人の研究生を指導しつつ、得意先との折衝や新規開拓の営業に奔走する毎日は多忙を極める。 「足立和裁」のブランドを確立したいと、クオリティの高い仕事に掛ける情熱は人一倍。

和裁研究所のシステム

「和裁研究所」たるものの歴史は古い。
研究所では通常住み込みで和裁の技術を学びつつ、実際に同所が受注した仕事をこなして行く。何年か経ち独立した後もその和裁研究所から仕事を請け負うと言うシステム、これらはかなりむかしから確立されていたそうだ。きものの街、京都では10件以上の和裁研究所が存在するとも聞いた。

国家検定資格も取得できる、つまり名実共に「手に職をつける」という和裁の技術はきもの離れが叫ばれる時代となっても魅力的。足立研究所には全国からそんな若い女性〔一部男性〕が入所し、運針からゆかたに始まり、襦袢、袷、コート、舞台衣装や舞妓の衣裳までの高度な和裁技術を学ぶべき寮に住み込んでいる。
17人の研究生を指導する足立さん、様々な気遣いや苦労があるのではないかとも?
「平均年齢21歳の若い女性ばかりですので、指導や対応にはやはり難しさを感じます。正直のところ、それぞれ資質もありますし、根気と集中力が多いに必要な仕事ですので時間配分などにも気を遣います。やはり目標を持っている子は伸びていきますね。大切なお嬢さんをお預かりしているわけなので、生活面での心配も大いにあります。」
足立さん自身が長年、親元を離れて修行に勤しんだ経験上、研究生の様々な思いを図る術を知っているのだろう、しかし、女性と男性はもともと行動資質が違う。男性の和裁士は珍しいのではないのかと尋ねてみた。


男性の和裁士だからこそ

「やはり男性の和裁士は珍しいのです。女性との比率は9対1、圧倒的に女性和裁士が多い世界です。それは、本来、女性の方が長時間、じっと同じスタイルで細やかな作業をすることに向いているのからだと思います。ただ、だからこそ男が目立つとも言えるでしょう。長く続け、高いところを目指すのも男性です。知り合いでお相撲さんみたいに大きな身体の男性の和裁士さんがいますが、足を使ってそれは細やかな仕事をなさいますよ。
え?私ですか。修行時代の若い頃はやはり辛く、仲間とこっそり寮を抜け出て遊びに行くことばかり考えてましたよ(笑)。挫折との戦いだったかもしれませんね。」
足立さんの今の仕事はじっと座って針を持つのではなく、プロデューサーの役割が主体となる。外に出てお客さんと折衝する。紹介者があれば新規のクライアントに出向く。納品、営業、もちろん研修生の仕事ぶりを指導しつつ検品作業は欠かせない。きせ(縫い代の折り返し部分)は正しいか、表と裏の釣り合いは取れているか、縫い目の細かさが厳しく求められるようになったのは、きものを縫い直す機会がないとされる近年の傾向であるらしい。
「お客さんに喜ばれ満足する仕上がりを目の前にしたとき、研修生共々、大きな達成感があるから、この仕事が大好きです。」と足立さん。


「足立和裁」ファンを増やしたい

海外の安い縫製需要が増える中、それとの差別化を図りたい日本の和裁。彼自身、和裁士組合で活動する中、「京仕立て」のブランド戦略についても意欲を持って語ってくれた。「日本人が着るものは、やはり日本人の手で作って行くべき。海外縫製とはまったく別モノであるという捉え方をして、優れた技術を伝えていくことが私たちの役割だと思っています。組合では加盟員のみが納品物に貼る事ができるラベルを作っています。そして、もちろん『足立和裁』のファンも広げて行きたいと願っています。和裁コンクールなどで認められる研修生の技術、そしてそれに至った指導力は我々の誇りです。それらを糧に自信あふれるブランド構築を目指したいですね。若いときに学んだこと、経験したことは大きい、それでもまだまだ、一生勉強だと思います。」
むかしから続く和裁研究所のシステムは今も変わることはない。
ただそんな中、そのシステムにまた違ったプラス要因を発見する想いだ。
後継者問題の解消に繋がるだろう。 就職難時代にあって、特別な技術を身に付けたいと願う若者に技術と仕事を与えるだろう。 目的を失い彷徨う若者に、知り得なかった世界の夢と喜びを与えるだろう。 努力と忍耐の後に待っている、満足感を教え与えることができるだろう。
一見して地味で辛そうな仕事だからこそ、キラリと光る希少な技。さらに多くの若者、もちろん男性も研究所の門戸を叩くことを祈りたい。
趣味は「仕事」と笑う足立さん。穏やかな人柄の中に、辛抱強い精神力が養われていると感じた。