きものを知る

トップページ

第四回 きものの世界っておもしろい

(有)杉村 6代目 杉村 昌哉氏

京都市上京区上立売通浄福寺西入る(有)杉村 6代目。33歳京都生まれ。
自動車整備の技術を学んだ後、志を抱き青年海外協力隊に参加。モロッコの地で専門学校の指導官に着き2年間の海外生活を経験。帰国後、福祉を学び中学生の更正施設で教務の職に励む。家業である西陣織製作の道に入ったのは30歳になってから。両親とともに現在、 若き西陣織の後継者として、時代感覚に優れた帯の製作プロデュースに力を注いでいる。 西陣帯地青年会の副幹事長としても、そのユニークなキャラクターで人望を集める。

しなやかに自分らしく帯を創る

西陣織で知られる地域がここらあたり(京都市内、今出川通をはさんで堀川通から西大路通周辺地域)。むかしはどこからともなく「カタンコトン」と機織の音が聞こえてきたという。数十年前、地域に住む学童の親は大体が西陣織関係の職に携わっていたらしい。細く込み入った路地を行けば少なくなったとはいえ、こじゃれた暖簾を軒先に掲げた帯屋さんが目につく。(有)杉村もそんな町並みに溶け込んだ一軒の事業所。ここで迎えてくださった跡継の杉村昌哉氏は、いたってカジュアル路線のさわやか青年だった。にこやかな笑顔に温かさを感じる。

「帯も着物と同じように細かく分業化されており、大きくは企画・製紋、原材料準備、機準備、製織、仕上げの各ブロックに分けることができます。製織の種類も手織、力織機、綴織があり、ウチでは手織と織機と半分ずつやっております。縦糸の下に図案を置いて色をなぞって(すくって)織り上げる手機の「すくい」は自由に色使いができるため、デザインの幅も広いのです。デザインからのスパンはものによっては半年ぐらいかかるでしょうか。」
杉村さんの話す傍らには同社で製作した帯が衣桁に掛けてある。なんともモダンな色合いとその意匠が洋服のセンスから見ても新しい。モザイク柄など、違和感なくすんなり入ってくるのだ。
「図案も私どもで考案しています。やはり『売れる』ものでないと意味がなく、作るものは洋服のセンス感覚を取り入れたモダン系です。一色一色については深いものを合わすようにしていますね」
産地問屋に納められる帯は、エンドユーザーさんの意向を反映させてこそ市場に受け入れられやすいと考える中、杉村さんの言うところの『業界が発信する情報の不足』という課題についてぜひは取り組んでもらいたいと思う。「どこに行ったら買えるのか」「適正な価格のラインはどうなのか」買ってよかったと実感したいし、また、させていただきたい。

それまで手機を使っていたお母さんに代わり、杉村さんが機を織ってみせてくれた。器用に糸をすくうその手はがっしりと日に焼けて若々しい。モロッコでの海外生活やヤンチャな生徒たちに厳しくも優しく愛情を注いでいたという経験が、杉村さんの人となりを創ってきたのか、男はあらゆる人生観を体得してこそナンボ!?
「作り続けていくことが大事。家業に付いて思ったこと、それは(帯の製作について)ナニも知らないと思っていたのに、勉強をしていくにつれ、実はそれまで両親が仕事に関わるすべてのシーンがリンクしていたのだとわかりました。育った環境の中、自然と身に付いていたのでしょうね」
自然体で柔軟な精神が、伝統産業を時代のニーズに合ったものにシフトさせていってくれそうな気がする。高感度のアンテナを持った人こそが厳しい世界の中で泳いでいくことができるのかもしれない。