きものを知る

トップページ

第一回 きものの世界っておもしろい

染色補正 橘田 一級染色補正士 橘田(きった)俊幸さん

今も現役、創業者である父親とともに京都市上京区知恵光院竹屋町上ルで染色補正業を営む。職歴15年。37歳、京都生まれ。染色試験場職業訓練所で2年間技術を学んだ後、3年間同業他店で修行を積む。新しい技術や独自アイデアを取り入れた仕事ぶりには定評あり。京都染織青年団体協議会の要職にも就く。

「染色補正とはわかりやすく言えば、『きものの生産過程における染難や色の違い、つまり、加工段階のトラブルを補正したり、仕立てあがって着用したあとの汚れやシミをきれいに落とすクリーニングのことですよ』と橘田さん。クリーニングはともかく、実際のところきものの製作段階にそんな手間が掛っているとは知らなかった。興味津々、「どうやって?」 「どんな状態(なにを)どうするの?」と質問を投げかけてみた。

どのような状態のものに、いかなる手を施されるのですか?

織の段(織ムラ)や、展示販売会などに出展しライトの光で焼けてしまった着尺などにはついてしまった線を色でぼかしたり、間違って染められた反物部分などに対してはふわしい方法で本来の色に差し染めします。
例えば花と葉っぱが染め描かれていたとして、葉っぱの部分が間違って花の色になっている。その場合、葉っぱの部分を釜の蒸気やスチーマーで熱を加え抜染液で漂白を行ってから、本来の葉っぱの色を差し本来の色に直すという作業を行うわけです。
この色についてもそのままの色を差すわけではなく、漂白したあとのベースの色に乗せて本来の色が出せるよう考えなければなりません。「色の引き算」とでも言うのでしょうか、さらに注意点としては、染が出来上がった状態に色を差すのですから、表面だけに濃く乗らないように裏から慎重に行う手加減が必要です。一般の染め屋さんがまっさらの白地に色を染める技術とは異なりますね。
また、汚れやシミ落しの場合に行う一連の行程は、まず油性の溶剤で洗う、それで取れなかったら水洗いする、それでも落ちなかったら漂白(黄変のシミか染料なのかを判断)という段取りを踏みます。まずは洗ってみないとそのシミの種類は断定できません。洗う工程の一手間を省くと取り返しの付かない事態を招くのです。

エアブラシで色を差しておられるのに驚きました。

え、そうですか。
昔は刷毛で行っており膨大な時間を要していましたが、今ではエアブラシを使う職人さんが増えてきています。
私自身、新しい技の伝授については抵抗なく行っていますがこればかりは経験と積み重ね。ちょっとした力のさじ加減は口で教えて伝わるものではありません。私自身、訓練場で技術を学びましたが、実際体験したことが現場では活用されます。
過熱のタイミング、色の調合データ、溶剤の分量、つける時間、補正の仕事すべてにおいて、実際仕事上で得とくしたカンが生かされます。このエアブラシのピース使いについてもそうで、何度も何度も吹き描きながら指で覚えた感覚です。
また親子で新しいツールを取り入れることについては積極的。既存の電気あんま器に刷毛を装着させ、オリジナルシミ落し機も考案しました。同じ力が腕に負担なく出せるので便利ですよ。トントントンとね。

橘田さんにとって「きもの」とはなんでしょう?また、今後の展望は。

きものはもちろん、事ある度に着ています。
披露宴や2次会、京都染織青年団体協議会のイベント。きものを着る人が一般に少なくなっても、「服飾」として着るものとして残していきたいと考えています。あくまでファッションウェアという見方をしたいですね。
きものを着たときは高価なスーツを着たときにも勝る満足感があり、ファッションの原点でもある「視線を感じる」「目立つ」という周囲からの反応が得られます。「ええなぁ」「格好いいなぁ」「なんぼ(いくら)ぐらいで買えるの」と聞かれますね。
で、ここも辛いところ。業界人だからこそ安く揃えることができるという内情を踏まえながら、一般ユーザーの方にきものをもっと安く提供できることができればと思ってます。むろん私の本職、シミ抜きについてもそうです。
「きものはいいけど、アフターケアまでお金が高くつく」となれば、きもの離れをさらに増やす要因ともなってしまうからです。将来展望というならば、もっと一般の方に私たちの仕事や役割を知っていただき、リーズナブル価格で利用してもらいたいということですね。

プロからのワンポイントアドバイス
きもののお手入れについて

きものを着たあとは風通しのよい場所に陰干しをしてください。シミがないかをチェックしてなければ文庫に入れる前に、和紙をたたんだきものの間に挟みましょう。湿気を吸ってくれます。女性の方は襟の部分のファンデーションの汚れに注意してください。必ずと言ってよいほど付着しています。お手入れはお早めに。早めの処理が安くつくポイントです。