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エッセイ

旅行できないならせめて本の中で旅を。しかし、一層旅情がそそられて。

07.09.14


 

身内に入院患者を抱えているので一泊以上の旅行を控えているのだが、このところの新聞では「この夏、海外旅行予定者は史上最大に」などの記事が目に付く。そして、週末夕刊には「今なら間に合うお盆の海外旅行特集」などの広告がまるで紙面ジャックするように満載されている。「旅に出たい」気持ちが逆撫でされている。そこで、せめて、行けないのなら、本の中で旅行気分を味わおうと沢木耕太郎の「国道1号線を北上せよ」を読んだ。「深夜特急」以来の贔屓で、古くは内田百閧フ鉄道旅行シリーズ「阿房列車」、小田実「何でも見てやろう」、本田勝一「極北の民族」などで代替の旅を堪能した。国道1号線・・は 著者お気に入りのベトナムをホーチミンからハノイへの国道1号線をバスで北上するのだ、この旅行には二つの本が印象的に出てくる。一つは、直接的に鎮魂の旅ともなる近藤紘一著「サイゴンから来た妻と娘」、そして、林芙美子著「浮雲」。浮雲の方は、林芙美子の作品世界と著者とは関わりがなさそうに思えるのだが著者はこの旅行の中で、この本を取り出しては暇にあかせて読み進んでいる。著者が読むように進行中のベトナムへの旅の合間に浮雲の舞台となる戦中戦後の日本人に触れることになる。巧まずして、ベトナムが二重構造となって迫ってくる結構で、読みやすくスピード感あふれた文体は深夜特急以来のもの。しかし、今回は、ところどころで、歳を重ねた著者の考えの変化にも出会える。林芙美子を持ち出したのもその一つだが、バスで一緒になる、ヨーロッパからの中高年バックパッカーへの批判的な目もそれだ。貧乏旅行に徹し、経済的旅行そのものを目的化した故の、現地人への対応で現れるある種の傲慢さへの批判。歳を重ねたことでの思考の深みを滲ませている。しかし、沢木耕太郎の本を読んでいる間は、旅心も満たされたのだが、読み終えると急に、旅へ出たい病がぶりかえした。 旅も適わぬこの夏は、蒸し暑さをどんな方法で発散すればいいのやら、悩みは深い。

 
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